
Live2Dの制作を行う中で思ったことの一つに
「個人勢によるVtuberアバターの発注って、依頼者側にとってギャンブルすぎるのでは?」
というものがあります。
というのも、
- 見積書や料金表の単語が独特すぎて、未経験者には価格と完成品のイメージが直感的に繋がりにくい
- 機能やモーションを形容する用語が業界外にあまり浸透していないため、発注者側は自分の要望をうまく言語化できない
- 発注者側にクオリティを判断する根拠が乏しいため、クリエイターを選ぶ判断基準が無い
などの状況があるからです。
いざ依頼先が決まったとしても、
「◯◯な感じの機能を実装してほしいんだけど、これってどう表現すればいいのかな?」
「なんとなく想像していたモーションと違うんだけど、どうやってリテイクを出せばいいんだろう」
「自分の希望するモーションが、技術的難易度や相場感がわからない」
といった形で、自分の要望を言語化することが難しい面も多々あることかと思います。
筆者はLive2Dを制作を始めて半年程度の人間なのですが、そんな自分だからこそ「詳しい人」と「詳しくない人」の橋渡し的な記事がかけるのではという考えました。
というわけで本記事は、Vtuberアバターの発注者向け(特に個人)を前提としたlive2Dの用語解説記事です。
- Live2Dクリエイターの料金表・見積書の意味がわかるようになりたい
- 自分の思い描くモーションや動きに、規格化された名前があるのか知りたい
- 非クリエイター目線でも必要な、Live2D の知識をもっと深めたい
といった発注者側の疑問や悩みを解決し、発注者選びで失敗しないための最低限の知識をつけていただくことが本記事の最終目標です。
(Live2D制作を勉強中の方が読んだ場合も、自分の学習やスキルアップのベンチマークとして活かせると思います)
前提用語
Vtuberモデルを利用したり発注するうえで、ほぼ必ず目にするであろう避けては通れない単語・用語をまとめました。
Live2D Cubism

流石にこの記事を読んでいる方で「Live2D」という単語を知らない方はいないとも思いますが……
Live2Dは正確には「Live2D Cubism」というアプリケーションの名前、もしくはその制作会社の名称です。
しかし現在では、同ソフトを用いて作成された独特な動きのアニメーション及び配信用アバター全般を指す、映像の表現様式やファイル形式のようなより広い言葉としても定着しています。
一言で言えば、「一枚絵をレイヤー事に切り抜き、福笑いの要領でパーツを動かすことで、3Dポリゴンにしないまま立体感のあるアニメーションを制作するソフト、あるいはそれによって制作された映像・アバター全般を指す言葉」といったところでしょうか。
2011年の『俺の妹がこんなに可愛いわけがない ポータブル』が本アプリが大きな注目を集めたきっかけであったことからもわかるように、本来はゲームなどにおける映像制作での利用を意図して作られたソフトでした。
しかし、2010年代末期のVtuberブームの隆盛や、トラッキング技術との相性の良さが化学反応を起こし、現在では特にVtuber業界のクリエイティブを支える最も根源的なアプリケーションとなっています。
こんなことはVtuberになるうえでは別に不要な知識なのですが、
「Live2Dという単語は本来、ソフト名もしくは会社名である」
ことと、
「別にVtube専用のアプリではない」
という点くらいは、業界の基礎知識として覚えておくといいかもしれません。
モデリング・リギング
「3D モデリング」などの形ですでに十分人口に膾炙している単語なため、こちらも詳しい説明は不要でしょう。
イラストレーターが描いた一枚絵を、トラッキングソフトで使えるアバターに加工する作業全般を、3D同様「モデリング」といいます。
また、似た用例の単語に「リギング」というものがあります。
こちらも本来は3D業界の用語で、モデリングされた3Dポリゴンにボーン(骨)やコントローラーを作成し、操作可能な状態にする処理のことを意味します。
そのためVtuber業界でも、一枚絵をLive2Dによって動くようにする作業のことを「リギング」と呼称します。
モデリングとリギングの意味の違いについてですが、日本のVtuber業界では両者に違いはありません。
というより、上記にあるような用例・意味を考えれば「Live2Dリギング」という言葉がより正確に実態を表しており、「Live2Dモデリング」という言葉はややニュアンスがズレています。
ただ現実的には、「リギング」という言葉が「モデリング」ほど一般的でないことも手伝って、Vtuber業界では双方交換可能な単語として、特に区別なく使われています。
(強いて言えば、3D業界出身者や海外クリエイターは「リギング(Rigging)」という表現を使い、日本のイラスト業界出身者や非クリエイターほど「モデリング(modeling)」を使う印象です。海外では「Vtuber Model」は通じますが、「Vtuber Modeling」は使われていません。)
以下この記事では、より多くの人に馴染み深いであろう「モデリング」という表現を中心に利用して説明します。
トラッキング・Vtube Studio(VTS)・NizimaLIVE
トラッキングとは、「追跡する」などを意味する英単語です。
Vtuber業界では主に「配信者であるあなたの表情や動きをカメラを通じて読み取り、あなたの分身であるアバターにその動きを同期させる」一連の処理をトラッキングと呼びます。
表情を読み取りアバターに反映させることは「表情トラッキング・フェイストラッキング」ですし、
手の動きを読み取ることは「ハンドトラッキング・フィンガートラッキング」ですし、
全身の動きをトラッキングする場合は「モーショントラッキング」です。
個人Vtuberが配信を行う場合、「フェイストラッキング」のみ対応のアバターを使うことが最も一般的でしょう。
(こだわりが強く、かつ予算に余裕がある場合は、ハンドトラッキングの対応も検討の余地ありですが)
Vtuberのトラッキングには、Webカメラ(i-phoneなど一部のiOS端末を含む)とトラッキングソフトの2つを用意するのが一般的です。
この記事ではカメラやソフト個別の講評は行いませんが、ソフトとしては「Vtube Studio」か「NizimaLIVE」を使うのが一般的かと思います。
Vtuberモデルの依頼をする際は、自分がどんなトラッキングソフトを使う予定なのかをあわせて伝えておくと、やり取りがスムーズとなります。
アバターを発注してからトラッキングソフトをダウンロードすると、ソフトのバージョンやPCのスペック、カメラやマイクといった機器系統で思わぬトラブルに慌てる事となってしまいます。
そのためこれからVtuberデビューを検討されている方は、ぜひともクリエイターに依頼する前に一度、トラッキングソフトをダウンロードしてお試しで動かしておくことをおすすめしておきます。
トラッキングソフトは基本利用料無料のソフトも多く、サンプル用のアバターが収録されていることがほとんどです。
キーバインド
上記の項目で「表情を読み取りアバターに反映させること」がフェイストラッキングであるという話をしました。
ところで、このフェイストラッキングで読み取れる顔の動きというのは実は限りがあり、
- 顔全体の位置と向き
- 目の開閉
- 眉の上下
- 口の上下左右の開閉(あいうえおの対応)
など、ごく初歩的な動きに限定されます。
(よりハイグレードな読み取りについては後述。)
一方でVtuberは、配信内容に合わせて下記のような様々な表情を見せる場合があります。

上記4つの表情のうち、前述の表情トラッキングで表示する事ができるのは左上の笑顔くらいでしょう。
(カメラの前であなたが笑顔になれば、アバターも勝手に笑顔になります。)
しかし、それ以外の照れ・怒りマーク・落影&ハイライト非表示などといった漫画的な表情表現については、配信者自身の現実の表情筋の動きだけでは表現不可能です。
(試しに、顔の筋肉の動きだけで目のハイライトを消す方法を考えてみましょう。)
そのためこれらの表情を表示するには、配信者は手元のキーボードやデバイス上のボタン操作などをもちい、手動でキャラの表情をコントロールする必要があります。
この「特定のキーを押したときに特定の表情や動きを表現する」対応関係のことを「キーバインド」と呼びます。
Vtuber発注の料金表で「表情差分3種」のような表記を目にすることがあるかと思います。
こうした追加表情の多くはキーバインド操作によって表示するものです。
もちろん下記の動画のように、非キーバインド操作で特定の顔を表示する操作も多少はあります。
しかし、できる表情のレパートリーには限界がありますし、自身の表情をコントローラーにしてアバターを操作する都合上、暴発のおそれもあります。
そのため、複数の表情を使う感情表現豊かな配信を目指すのであればこのキーバインドの設定はマストの作業となるでしょう。
キーバインド設定は表情変化の管理だけでなく、トラッキング結果を無視して特定のポーズや表情をとるように設定することも可能です。
そのため、SNS活動やサムネ作成のためにウィンク顔や上目遣いといった特定の表情や角度でのポーズを固定で取る場合や、スパチャがきたときにワンボタンで手を振るといった操作を実行する場合にも、キーバインドは活用できます。
キーバインド操作はお手持ちのPCのキーボードやマウス操作で実行することも可能ですが、
左手用デバイスやフットペダルなどを利用すると、よりスムーズなコントロールが可能となります。

Elgato Gaming Stream Deck XL
フィリップス

USBフットペダル スイッチ
素材わけ・パーツ分け


上述の通り、Live2Dは一枚絵をパーツごとにバラバラに分割し、それぞれを福笑いのように独立して変形させることで動きや立体感を出すアプリです。
その準備段階として、一枚絵のデータをバラバラのパーツに分解する必要があります。
この工程を素材分け(公式用語)やパーツ分け(俗称)などと呼びます。
(ちなみに、それを右図のように整列したものを「テクスチャアトラス」といいます。)
参考:Live2Dのパーツ分けを解説!VTuber用イラストを描く上で大事なポイントとは【基本知識】
分解と言っても、単にバラバラ殺人のように切り分けるだけではだめで、パーツ同士の重なる部分、後頭部や衣服の裏側など通常の一枚絵では描かない部分などの加筆も必要となります。
より破綻の少ない手間のかかったモデリングを目指す場合、部位によっては線画だけ独立させたり、落影やハイライトなども個別パーツとして分解する必要が出てきます。

完成した一枚絵のパーツ分けを依頼する際の注意点
さて、この記事を読んでいる方の中には、「昔とある絵師様に描いていただいたこのイラストを、なんとかしてLive2D化したい」というニーズを抱える方もいらっしゃるかと思います。
この場合のように、完成した一枚絵をLive2D化したい場合は、まず誰に何を頼めばいいのでしょうか?
結論から言えば、まずは
「原画を担当した絵師に連絡を取り、元データが残っているのであればLive2Dようにパーツ分けしてほしい」
という依頼をかけることを強くおすすめしたいと思います。
逆に言えば、パーツ分けという作業は「原画を描いた絵師」以外が行うことは、極めて負担の大きい作業なのです。
モデラー目線でみた場合、イラストのパーツ分け・モデリングのしやすさは下記のような基準で分かれています。
(上に行くほど制作が楽でクオリティも出しやすい。)
- 制作開始時点でLive2D利用を前提としており、作画段階でパーツ分けがある程度十全になされている。
- Live2D利用には不十分だが、線・塗り・テクスチャ・フィルター・背景などのレイヤーが未統合であり、各種身体パーツもある程度レイヤーが独立している。
- 人物のレイヤーは統合されているが、フィルター・テクスチャ・背景などは別レイヤー。
↑
(越えられない難易度の壁)
↓ - すべてのレイヤーが統合されている。
一番下の水準4に当たるデータをパーツ分けするためには、
「原画を維持したまま、線・塗り・陰影・テクスチャ・フィルターを分離する」
「原作者のテイストを再現した違和感のない加筆を行う」
など、かなり独特なスキルツリーが求められることとなり、Photoshopなど各種機能やAIによる補正などの最先端の機能を用いても負担の大きい作業となります。
とくに立ち絵を担当したイラストレーターが、自作したブラシや独自のテクスチャ素材を利用していた場合、違和感のない加筆を行うことは修正者のスキル技量とは無関係に不可能となります。
さて、話を戻して「手元にあるこのイラストをLive2D化したい」というご希望についてですが、残念ながらほとんどのケースにおいて、そのデータは一番下の水準にあたる「すべてのレイヤーが統合されている」データであると推測されます。
(データの拡張子が.jpgや.pngなら確定で4です。希望があるのは.psdとか.clipとか.ibsなどの拡張子を持つファイルですが、これらのデータの中身を確認できる専用アプリケーションは、一般家庭のPCには無いかと思います。)
率直に言って、「他の絵師の手によるイラストデータのパーツ分けは、可能なら避けたほうがいい」というのがほとんどのモデラーさんの感想だと思います。
「パーツ分け承ります」という看板を掲げるクリエイター様も多数いますし、僕自身そういった依頼をお引き受けすることも多々ありますが、それはあくまで担当絵師が蒸発した場合などの最終手段と位置づけるべきだと考えています。
また、後述するような理由により、Live2D制作はモデリング中に絵師にコンタクトを取る必要が発生するケースが多々あります。
一枚絵のパーツ分けを依頼する場合は、「その原画を作成した絵師に依頼する」ことを強くおすすめいたします。
加筆修正
加筆修正とは文字通り、制作物について加筆と修正を行うことです。
ただLive2Dモデリングにおける「加筆修正」は、通常イラスト発注における「加筆修正」以上にややこしい、わざわざ記事において項目を割かねばならないある事情があります。
というのも、Live2D制作において絵師とモデラーが分業して制作する場合は、イラストレーター側との間で、
「納品完了後の加筆修正についての取り決め」
について、触れておく必要があるからです。
前提として、Live2Dのイラストイラストはその性質上
「実際にモデリングを進めてみて発覚する塗り残し」
「パーツ分けをもっと細かく分け直してほしい部品」
「モデリング中に立体感を強くするために描き足してほしいパーツ」
などが生ずるケースが度々発生します。
これは、イラストレーター自身がLive2D制作に十分通暁している場合でも十分に発生しうることです。
まして、絵師さんの方にLive2Dの経験がない場合、ほぼ確実に「モデラーからイラストレーターへの修正希望」が発生します。
で、この部分は極めてトラブルの発生しやすい工程だったりします。
最もよくあるトラブルの種は、このときの修正にかかる労力的・金銭的コストを、誰が負担するのかという点です。
クリエイター側は両者ともに「発注者が追加料金を出せ」と思っていますし、
発注者側は「そんなの事前に伝えるか、見積もりの中に含めておいてくれよ」と考えるからです。
最もスムーズに話が進むケースは、イラストからモデリングまで一人の人間が制作しているパターンでしょう。
これはクリエイター当人が、自分で加筆して自分でモデリングを進めるため、特に問題も追加料金も発生しません。
次に穏当なのは、モデラー側もある程度絵を描けるタイプであり、必要なパーツをモデラー自身が自作できる場合です。
この場合、イラストレーター側に「あなたの絵に対し、モデラーがパーツを加筆してもいいですか?」という許可を取った上で、モデラー側で必要な修正を行ってくれます。
ややこしいのが、何らかの事情で「追加パーツは絵師が描くしか無い」という状況です。(絵師側が他者による加筆を拒否した場合や、モデラー側が自身による加筆サービスを行っていない場合。)
この場合、イラストレーターさん側にLive2D制作へのある程度の理解がなければ、普通は追加料金が発生することを覚悟しておくべきでしょう。
しかもLive2Dの加筆修正は基本的に「モデリングを進める中で漸次発生する」というものなため、一回でまとめてリテイク依頼を出すこともままなりません。複数回にわたって修正が発生することも視野に入れておく必要があります。
対策なのですが、基本的には今回があなたにとって初めてのVtuber制作なのであれば、Live2Dモデルの依頼は一括制作(デザイン~モデリングまで)を引き受けてくれるクリエイター宛に依頼するのが、やはりベストなのかなと思います。
それが難しい場合、イラストレーターさんへの見積もり依頼の段階で、
「モデラーさんによるリギング作業中に発生した加筆修正依頼」
についての対応を、事前にある程度相談しておく必要があります。
イラストレーターさんに見積もりを取る段階で、モデラー側からの修正依頼が発生する可能性を事前に伝えておくのがスマートなのですが、そこまでの気配りを発注者が事前に回しておくのは困難というのが、実際のところだと思います。
余談
この件については、天下の株式会社COVERでさえ、公正取引委員会から怒られが発生してます。そのくらい、業界内でも最適解を見つけられていないのが現状でうs。
参考:https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2024/oct/241025_cover.html
初心者向け用語
Vtuberを発注するうえでは、機能と予算は常にトレードオフとなります。
この章では、
「こんな感じの機能は実装してほしい!」
「こういう機能はそんなにほしくない」
というような細かい発注を的確に出すために、ぜひとも覚えておきたい単語群です。
顔のXYZ
Live2Dに限らず、3Dモデリングソフトやアニメーションソフトでは、データ内に仮想上のXYZ軸が設定されています。
そして、さまざまなオブジェクトの動きを表現するときに
「X軸方向に+10だけ移動」とか
「Z軸方向に-30度回転」などのように、
軸に沿って複雑な動きやモーションを整理・分類して表現することになります。
このXYZ軸という考え方は、Live2Dにおいても同様です。
キャラクターが左右に目を動かす行動は「目をX軸方向に動かす」と表現しますし、
キャラクターが上下に首を振る行為は「頭をY軸方向に上下させる」と表現しますし、
キャラクターの身体が画面と並行に揺れる動きを「身体のZ軸方向の回転」と表現します。

(「いやいや」と首を振る動き)

「うんうん」と頷く動き

「あれ?」と首を傾ける動き
例えばココナラやSKIMAの料金表で
「頭部・身体の動きはZ回転のみ」
といった表記があった場合、右動画にあるような「Z回転のみ」の動きが実装されたアバターが納品されることになります。
ちなみに、3つの動きの中で「見た目の動いてる感は大きいが、制作コストは低い(=コスパがいい)」のはZ軸の動きです。
逆に最も制作コストがかかるのはY軸の動きで、
- 上や下を見る角度の人間の顔は、そもそもブサイクになりやすい。
- Y軸回転の描写(煽り・俯瞰)はX方向、Z方向に比べて立体感覚やデッサン力が求められる。
- X軸の動きとかけ合わせたとき、斜め顔も個別にモデリングが必要になるためシンプルに工数が多い。
などの理由で制作が難しく、制作に時間がかかる上制作者の力量が如実に出ます。
(上の画像でも、Y軸の動きだけ可動域が明らかに狭いのはそういった理由によります)



上記の3種の場合、制作コストは「XZのみ<XYのみ<XYZ全部」と右に行くほど負担の重いアバターとなります。
が、見た目上の違いは制作労力の差ほどはありません。
(XZ軸回転のアバターを見て「このアバターは上下を向くことができていない」という印象を抱く人は、ほとんどいないのではないでしょうか?)
「一番左のXZ軸回転で十分だよ!」
という方は、見積もり依頼の際にその旨を伝えることで、料金を割り引いてもらえるかもしれません。
目の開閉(=瞬き/目パチ)・ウィンク・笑顔目

名前の通りです。(目パチは瞬きのアニメ業界用語)
前述のキーバインドがなくても、通常のトラッキングのみで表現できる表情変化となっており、VtuberのアバターではほとんどすべてのVtuberアバターに実装されている表情と言っていいかと思います。
(ただし自然なウィンクをトラッキングで行うには、トラッキングソフトの設定に工夫が必要です。)
口の開閉(=口パク/口パチ)・あいうえお(=リップシンク)


口の開閉は、目の開閉同様に、トラッキングで表現できる代表的な口の動きです。
低予算版のアバターの場合、母音表現に対応していない本当にシンプルな口の開閉(画像左)しか実装されていないこともありますが、大抵のすべてのVtuberアバターには実装されています。
一方「あいうえお」とは、その名の通り配信者の口の動きを読み取り、それに連動した口を表現する機能です(画像右)。
やや制作コストは掛かりますが、概ねほとんどのアバターでは母音のリップシンク(これももとはアニメ制作用語)に対応しているかと思います。
廉価なモデルの場合、本当に口の開閉だけとなりますが、よりレベルの高いモデル制作であれば前歯・奥歯・舌・上唇・下唇・唇の艶などもパーツ分けを施し、口内の立体感まで再現することもあります。
ちなみに、あいうえおの読み取りは標準的なトラッキングソフト機能だけでも十分表現できますが、よりこだわりの強い方は記事の最後半で紹介する「マイクロリップシンク」を取り入れることで、より精度の高い口の読み取りを実現できるようになります。
しいたけ目・ハート目・顔の落影(ガーン)・ハイライトOFFなど
代表的な追加表情差分です。
視聴者とのコミュニケーションの幅が広がるため人気も高く、かつ実装が簡単で低予算・低技術でも導入しやすいことから、様々なVtuberアバターで搭載されている表情です。
漫画的表現である分表情トラッキングでは再現できないため、操作するには前述の「キーバインド」の設定が必須となります。
舌出し・頬ぷく・顰め面・くちもぐ
上述の表情差分単なるパーツのON/OFFだけで表現できた漫画的な表情とはことなり、隣接する口・目・輪郭などのパーツの変形を伴うことから手間もかかるなど、よりハイグレードな表情差分と言えるでしょう。
「無料で表情差分3種追加できます!」と謳っているタイプのモデラーだったとしても、こういった表情の追加は追加料金が必要なケースも多々あるかと思います。
また「パーフェクトシンク」という処理を導入すれば、配信者の表情の動きをトラッキングして出力することができるという意味でも、よりワンランク上の表情と言えるでしょう。
(キーバインドでの出力も、一応可。)
一つの表情に二通りの操作方法があるという点において、混乱や誤解が発生しやすい表情でもあります。
詳細は記事最後で取り上げます。
身体のXYZ
上述の「頭部のXYZ」と似た意味ですが、厳密には「頭部のXYZの動きに追従して、身体が動くか否か」という意味です。
下記GIFアニメを御覧ください。


左のモーションは頭部のZ回転にしか連動していないのに対し、右のモデルは頭部の動きに合わせて細かく身体が動いているのがわかります。
当然、左のモデルのほうが廉価で制作依頼を出せますが、動きは硬い印象となります。
余談ですが、ほとんどのVtuber向けトラッキングアプリには、実は身体の動きを検知する機能はありません。
そのため、基本的に身体が動くLive2Dアバターというのは、実はあらかじめ定められた身体のモーションを、頭部XYZの動きに追従して動かしているだけとなっています。
(そのためVtuberは、首は動かさず身体だけを自由自在に動かすことは基本できません。)
なので、たとえば同じ「Y軸方向」のうごきであっても、
「顔のY軸方向の動き」とは、上下を向く動きを指しますが、
「身体のY軸方向の動き」といえば、「身体が上下を向く動き」ではなく「顔が上下を向いたときの身体の追従」のことを意味します。(X・Zも同様です)
ちなみに上記のモデルでは(僕が)制作をめんどくさがって身体の立体感があまりないデータとなっていますが、有名企業にアバターを提供しているようなトップクリエイター各位は、手足を関節ごとに分けるのはもちろん、指の一本一本、ファスナーの取手からフリル一枚一枚の表裏に至るまで徹底的にパーツを分解し、首から下の動きにも立体感を出す手間を惜しみなくかけていたりします。
呼吸
トラッキングで読み取った動きとは独立して、常に身体が僅かに上下する機能です。
取り立てて特別な仕様ではなく、かなり廉価なアバターも含めほとんどのアバターに実装されているかと思います。
(トラッキングやキー操作とは無関係に、一定のリズムで動くものがほとんどです。)
本当に僅かな動きなので、言われなければ気が付かないかもしれません。
が、これがあるとナイトではキャラクターの「生きている感」が全く異なります。
単に身体が上下に引き伸ばされているだけのものがほとんどですが、
企業勢レベルのアバターとなると胸の膨らみや肩の上下などがきちんと再現されていたりします。
物理演算(揺れもの)・◯◯揺れ
Live2Dには「物理演算」という機能が実装されています。
平たく言えば「髪・胸・スカート・アクセサリー」などのモチーフの揺れを表現する機能です。


名前の仰々しさに反し、単に揺れを実装すること自体は割と簡単だったりします。
ただし、より自然な揺れを再現したり、より滑らかな揺れを表現するには、ブレンドシェイプなどより高度な操作と調整が要求されます。
ちなみに、こういった「長髪・イヤリング・ネックレス・マフラー」など風になびいたり重力で揺れたりするモチーフのことを、ソシャゲやVtuberの世界では「揺れもの」と呼びます。
かなり手軽に「人目を引く絵や動画」が作れることから、キャラクターデザイン上非常に重視されるモチーフです。
瞳揺れ・まつ毛揺れ
通常瞳や睫毛は揺れるものではありませんが、Vtuber制作では表現の一環として、目の開閉に合わせて睫毛や瞳(あるいはその瞳孔やハイライトまで)を揺らすというものがあります。

ごく僅かですが、目を開閉したときに瞳孔が収縮したり、まつ毛が上下に揺れているのがわかると思います。
特にアイドル系のVtuberに人気の表現手法で、うまく使えば視聴者に大きなインパクトを与えることができます。
高可動域モデル
SKIMAやココナラの商品ページで非常によく見る単語です。
意味としては、「顔のXY方向に向ける角度が大きい」という意味です。
『じゃあ、どこからが「高」可動で、どこまでが「低」可動なんだ!』
と思い色々調べたのですが、どうやら厳密な定義の無いまま用いられているおまじないフレーズなんじゃないかとおもいます。
(もし「高可動」の定義づけや根拠をご存じの方がいましたら、ぜひご一報ください。)
現状、一枚絵の「華やかで高精細!」みたいな謳い文句と同じで、とりあえずいったもん勝ちなキャッチコピーと考えていいと思います。
上級者向け用語
最後に、Vtubeアバターの制作や、配信活動を行う上でのソフトウェアや、配信における操作などについての用語の解説を行います。
かなり上級者向けの内容となりますが、「有名配信者では当たり前の仕様が、実は結構お金のかかる仕様だった」というケースを把握する意味でも、ぜひ覚えておきたい単語となります。
マイクロリップシンク
マイクロリップシンクとは、上記にある「カメラ経由での口の動きの読み取り」にくわえ、「マイク経由で入力される声からの口の動きの読み取り」を行うことで、より高精度の口の動きを実現する機能の呼称です。
上述のトラッキングの項目で、フェイストラッキングは「口の上下左右の開閉(あいうえおの対応)」を読み取るというお話をしましたが、このマイクロリップシンクを導入すれば、口の動きの精度が高くなりよりリアルな口の動きを実現できるようになります。
マイクロリップシンクを取り入れるためには、
- トラッキングソフトがマイクロリップシンク対応であること
- Vtubeアバターがマイクロリップシンク対応であること
の2つが求められます。
トラッキングソフトについては、前述の「Vtube Studio」か「NizimaLIVE」は両方とも対応しています。(要設定)
問題はアバターの方でして、制作前の段階からマイクロリップシンク対応を前提にモデリングする必要があります。
また、その実装にはLive2Dの「ブレンドシェイプ」と呼ばれるややハイレベルな機能を利用してモデル制作をする必要があります。(難易度は高くないのですが、依頼先が専業モデラーでなければ制作を断られる可能性が高いです)
そのためマイクロリップシンクを使いたい方は、依頼の段階でその実装を前提に見積もりをお願いする必要があります。
パーフェクトシンク・VBridger(ブイブリッシャー)・Vitamins(ビタミン)
よりハイグレードなアバターを目指す場合、パーフェクトシンク対応のモデル制作が視野に入ってきます。
実は一般人が入手可能なトラッキングセンサーの中でも、特に高いグレードの性能を有しているのはiOS端末(iPhoneやiPad Pro)搭載のFace IDだったりします。
そのため、特に表情の読み取りや表現に力をいれて配信活動を行いたい配信者は、最新機種のiOS端末でモーションを撮影し、それをリアルタイムにPCで処理する形でライブ配信をおこなう、とい手法を取る場合があります。
この「iOS端末のトラッキング機能を利用できるLive2Dアバター」のことを、一般に「パーフェクトシンク対応」という単語で呼称します。
(本来はVRchatなど3Dモデル業界の単語です。)
なお、iOS端末から送られてきたデータの処理については、nizimaであればそのまま受け取ることができるのですが、Vtuber studioを使う場合は「VBridger」や「Vitamins」といった外部プラグインが必要となります。
参考:【VBridger】導入準備 編(初級)
参考:Live2D案内 -VBridger
参考:Live2Dモデル「白紙ちゃん」の説明書
2025年現在、VBridgerは有料、Vitaminsは無料となっています。
(その代わりVitaminsは英語のみで、日本語による解説記事なども少ないです。)
パーフェクトシンク最大の特徴は、口周りのトラッキングに強い点です。
実装できれば「ほっぺをふくらませる」「何かを食べているかのように口をモグモグさせる」などの動きを、キーバインド無しでコントロールすることができるようになります。
ちなみに、Vtube Studioにおいて、上述の「パーフェクトシンク」にてトラッキングできる顔の動きは、下記の通りです。
- TongueOut → 舌出しを検知
- cheekPuff → 頬の膨らみを検知
- FaceAngry → 各部を顔の中心へ寄せる動きを検知
- MouthX → あごの左右動きを検知
この検知を活かし、例えば下記のような表情変化を実装することができます。
- FaceAngry→顰め面をすることで、「><みたいな困り顔」を表示する
- MouthX→顎をずらすことで、口の片側だけをニヒルに上げる顔を表示する
前述の通りVtubeの表情は、現実の顔の動きと必ずしも完全に一致させる必要はなく、表情筋を一種のスイッチやコントローラーとして利用することもできます。
パーフェクトシンクを使えば、このコントローラーのボタンの数がいくつか増えるという捉え方をすることもできるでしょう。
「舌出し」や「頬ぷく」を依頼する際の注意点
そんな魅力的なパーフェクトシンクですが、依頼の際には注意が必要な面もあります。
「舌出し」「頬ぷく」といったモーションには、
- キーバインド操作による表情変化(ブレンドシェイプ技術不要)
- パーフェクトシンクによる表情変化(ブレンドシェイプ技術必須)
という二種類の操作方法があるのですが、ココナラやSKIMAの商品ページに載っている「舌出し」「頬ぷく」が、はたしてこのどちらなのか、多くの場合きちんと書かれていないという点です。
「舌出し」「頬ぷく」は、どちらも「パーフェクトシンク」によって動かすことができる表情の代表例です。
特に舌出しは有名配信者である宝鐘マリンの下記の切り抜きなども印象的であり、非常に人気の高い表情差分の一つです。
上記切り抜き動画では、
「使用者である宝鐘マリン自身、こんな機能があることは知らされていなかった。」
「にも関わらず、たまたまカメラの前で舌を出したら、アバターも舌を出したのでびっくりした。」
という流れが見られます。
この状況からも分かる通り、大手配信者のアバターに実装されている舌出しや頬ぷくは、トラッキングによる表情変化の操作方法が採用されています。
一方、ココナラやSKIMA経由で販売される個人活動向け配信アバターのほとんどは、前者である「キーバインド操作での変化」が主流と思われます。
パーフェクトシンク(や、その制作に必要なブレンドシェイプ機能)は別になくてもそれなりに可動するモデルを制作できることから、駆け出しのLive2Dモデラーさんや絵師との兼業Live2Dモデラーさんの場合、この機能に詳しくないという方も珍しくないからです。
(もちろんすべての制作者を確認したわけではないので偏見なのですが……)
キーバインド操作による頬ぷくや舌出しは制作が比較的容易ですが、パーフェクトシンクを導入しても動かすことができません。
そのため将来的にパーフェクトシンクを導入した場合、表情周りのモデリングを一から作り直す必要があります。
(表情表現に重きを置く海外のコミッションサイトでは、Vbriger対応アバターへのアップグレードに特化した募集が数多く出ているくらいです)
すなわち、ここには、
「有名配信者による、自身の表情変化に連動する舌出しや頬ぷくを行っている様子を前提とする依頼者」
と
「キーバインド操作がノーマルな表情変化の操作であると認識する、Live2D制作者」
という、依頼者と制作者側の認識の、大きなズレが発生しがちなのです。
パーフェクトシンク機能は制作には時間とスキルの両方が求められるため、本来納期・価格面で依頼者側にもそれなりの覚悟が必要となる機能です。
(デザイン・立ち絵作成を除いたモデリング費用だけで、最低10万円からになると思います)
それ以前に制作できる母数が乏しいことから、そもそも対応してくれるモデラーさんを探すだけでも選択肢がぐっと狭まるかと思います。
というわけで、もしあなたが「舌出し」「頬ぷく」「口もぐ」などの機能を求める場合、依頼の際に
- キーバインド操作による簡易的な表情操作であることを前提に依頼する
- 見積の段階で「VBridgerによるパーフェクトシンク対応モデルで制作できますか」などの確認をしておく
の、どちらかを行う必要があることに注意しておいてください。
前述の通りVBridger対応のモデル制作は海外のほうが圧倒的に強いため、Vgenなどの海外系コミッションサイトで依頼するというのも一つの手となります。
その他参考動画
もう少しLive2Dについて深く知りたいと思った方のために、下記の動画を紹介しておきます。
Vtuberである粛清ばつ丸による、Vtuber制作のダイジェスト動画です。
立ち絵の制作からパーツ分け、メッシュうち、リギング、トラッキングまでの過程が25分程度の動画としてまとめられています。
(ちなみに動画では「1日でVtuberになれる!」とありますが、もちろんここには「(スキルがあれば)1日でVtuberになれる!」という括弧書きが隠れいています。)
短時間でVtuberアバター制作の流れを知るうえでは非常に勉強になる動画かと思います。